僕と影月凛音の怪異談【マウンテンキャット】の章

壱話「風船と少女と僕」

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「お兄さん」
 突然、人影の無い道路で幼い見た目をした少女に声を掛けられた。
「お兄さん、て俺のことか?」
 僕が問いかけると、少女は軽く微笑んだ。
「お兄さん以外に、この辺りに人なんて居ないじゃない」
「それもそうだな。それで」
「何? お兄さん」
「僕に何か用か?」
「うん! 実はね、この辺りに天森公園ってあるでしょ。そこの公園の木がたくさんね、生えてる場所に風船配りのおじさんがね、居るっていう噂がね、あるの!」
 天森公園、といえばつい最近不審者が現れたと言う噂が流れており、何時も人が居ないのにその噂のせいか、更に人が減った自然豊かな公園だ。
「もしかして、一人で行くつもりか?」
「お兄さん、それだったら私がお兄さんに声掛けた意味が無いでしょ。お兄さんにね、風船配りのおじさんが見つかるまで一緒に居て欲しいなって。だから声掛けたんだ」
「まあ、最近変な人が出てきたらしいからな。子供だけだったら心配だな。でも、それだったらお母さんやお父さんに一緒に来てもらった方が良いんじゃないか?」
「だって、お母さん達忙しいもん。それに、おじさんが居なかったらお兄さんに風船買ってもらうから」
「勝手に決めんな!」
「えへへ、冗談だよ。お兄さん」
「さっきのは全然、冗談に聞こえなかったぞ」
 少女と、他愛のない会話をしながら、天森公園へと歩いていく。ただでさえ人影のなかった周囲だが、公園へと近づくと同時に更に人の気配が感じられなくなっていく。
「なあ、この辺に本当に風船配りのじいさんなんて居るのか? 人の気配すらしないんだが」
「いると思うよ、お兄さん。だって小学校の帰り道でおじさんに、夕方になったら適当な人と一緒に一ヶ月ぐらいはこの公園に来てね。って言われたもん」
「それ、すっごい犯罪の気配がするんだけど。一ヶ月間も風船貰いに行くのか? てか、最初と言ってることが違ってるぞ」
「だって、おじさんにそう言えって言われたもん」
「お前、何時か誘拐されないか心配だぞ」
「大丈夫だよ。この生まれてからおよそ十年ぐらいは生きたけど、一回しか誘拐されてないもん。それに未遂だったし」
「それを大丈夫だとは言わねえよ!」
 そう言い合い? をしながら、僕は少女について行く。少女は元気に鼻歌を歌いながらスキップをし、天森公園へと進んでいく。たまに進むのが早くなったり、遅くなったりする少女の進む速さに合わせながら、歩いていく。
 歩き始めて大体十五分ぐらいになると、天森公園にある雑木林の奥の方にまで来ていた。ここに行くまで、僕も少女も人の姿を一切見ていない。本当にここに風船配りのおじさん(仮)とは居るのだろうか。実はこの少女の嘘に僕はまんまと騙されているのではないか。
 少女が歩くのを止める。僕もそれに合わせて、歩くのを止める。少女は僕に背を向けている。
「ねえ、お兄さん」
 少女は僕に話しかける。だが、その声はノイズが混じっているような、聴いてるだけで吐き気がするような気味の悪い声だった。
「お兄さんは、さ。知ってる? この街にむかーし、昔から伝わる昔話を」
「知らないよね。もう知ってる人も、一族も限られてて、もうその昔話の出処でさえ、分からない」
その声に、僕は答えることはできなかった。もう、立っているだけでもかなりキツい。僕はその場にしゃがみ込む。少女は近づいてくる。
「その昔話にはね、【明陽書】という力を持つ本の存在が記されているの。それを手に入れれば」
「私達は……私はとても広大な力を手に入れることができるのだ! この小娘のカラダは私にとても合う。まるで、元から私の体だったようにな」
 少女の姿をした何かが、大きな声でそう言う。もう、考えることすらキツくなってきた。
「お前が、明陽書を持っていることは知っている。それに」
 少女の姿をした何かは僕の顔に触れ、舌舐りをした。
「こんなにも、私を魅了する美味そうな匂いをしているからな」
 妖美な笑みを浮かべ、言う。嗚呼、僕の人生はここで終わってしまうのか。そう思い、覚悟を決める。
 遠くなっていく意識の中、僕が見たのは
 ――青みがかった黒髪をなびかせる、黒一色の服装をした少女が、僕に触れていた少女の姿をした何かに手を触れ、僕の体に触れていた奴が悲鳴をあげている姿だった。
 悲鳴が聞こえなくなると、僕に触れていた少女は規則的な呼吸をし、僕に襲いかかっていた異様な体のだるさ等その他もろもろの症状は消え去っていた。その非現実的な光景を薄らげながらも見聞きしていた僕はテーブルでトークしながらロールプレイングをする、冒涜的な神話生物が出てくるあのゲームならば、即正気度チェックの時間に入っていただろう。
 黒髪の少女が、僕に手を差し伸べる。手を取れということか?
「……体の気だるさとか、そういう後遺症は、無いか?」
「あ、嗚呼大丈夫だ」
 ありがとう、そう言おうとしたら少女の姿は消えていた。何だ、瞬間移動か? ゲームじゃあるまいし。いや、さっきの出来事も十分非現実的だけど。ふと、足元に有った重みが消えていることに気がついた。
 どうやら取り憑かれていた(?)少女を黒髪の少女は運んでくれたらしい。あくまでも憶測だが。何から何までやってくれて有難いと思う。
 今度会ったら、必ずお礼を言おう。そう思い、僕は足早に家に帰った。まさか、この出来事がこれからの僕の人生を大きく狂わせることになるとはまだこの時の僕は知らなかった。いや、いずれこうなっていただろうけど。
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